多くの日本人は、川端康成の長編小説「雪国」( “Snow Country”)を知っているでしょう。
特に冒頭の一文“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”は、あまりにも有名です。
この冒頭は想像力をかきたてます。
まず、トンネルから出てきたのが誰なのかまたは何なのか分かりません。
多くの人は列車を思い浮かべるでしょうが、車でも馬に乗った人でもよいわけです。
この文には主語がないので、トンネルから何がでてきたのかは読者の想像に委ねられます。
もしトンネルから出てきたのが列車であるならば、主人公はその列車に乗っていて、
窓から雪国を眺めている情景が想像できるでしょう。
私は「雪国」の英訳を読んだとき、冒頭の一文に驚きました。
“The train came out of the long tunnel into the snow country.”
原文とは異なり、あまり詩的に感じられませんでした。
原文では、何がトンネルから出てきたのか書かれていませんでしたが、英訳では、出てきたのがはっきり列車だと書かれています。
読者に想像する余地はありません。
英訳は冠詞である“The” から始まっており、なんとなく事務的で情緒に欠けた印象を受けました
個人的な感想はひとまず置いておいて、この違いは英訳の善し悪しというよりも、
2つの言語の根本的な違いが顕著に表れているよい例です。
英語は主語を明確にしなければならない言語で、
日本語は主語があいまいでも、もしくは省略されても成り立つ言語という点です。
翻訳者は「雪国」を英訳する際に、何がトンネルからでてきたのか、
主語を明確にしなければならなかったのでしょう。
私が最も驚いたのは視点の違いです。
英訳では、トンネルから出てくる列車を読者が外側、例えば丘の上から眺めているような視点です。
“The train came out of the long tunnel into the snow country.”
原文の視点では、読者は列車の中から雪国を見ています。
“国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”
なぜ視点を変えてしまったのか、
なぜ「国境」という言葉を英訳からは省いてしまったのか、
翻訳者と話せるのなら質問してみたいです。
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